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東芝原子力事業部を就職先として選択した大場 千尋は、はじめから原子力分野を強く意識していたわけではなかった。「MDプレーヤーに動画機能がついたら面白いのに。」高校時代、デジタルプロダクツに興味のあった大場は、こんなユニークな発想をしていた。その後、大場は大学で電気工学を専攻し、画像信号処理を扱う研究室の扉を叩いた。その専門性を身につけることで、漠然と自分の思い描いたものが現実化できるような気がしていたからだ。修士時代も終わりに近づく頃、大場は、デジタルプロダクツ分野のエンジニアを目指そうとしていた。この時点では、自分の専門性が原子力分野と結びつくとは想像もしていなかった。
就職活動中に東芝の先輩社員のもとを訪れた時だった。大場は、先輩から原子力発電プラントの「集中監視制御システム」の説明を受け、自分の専門性が原子力発電所の中枢システムにも活かせることを知った。「数十年後も、原子力発電は必ず世の中の主役でいる。身につけた原子力技術は一生色褪せない。」この先輩の言葉に心打たれた大場は、その訪問をきっかけに最先端の要素がぎっしり詰まった原子力分野へ、大きな方向転換を行うことを決意した

現在、大場は横浜市内に位置する磯子エンジニアリングセンターに勤務している。ここでは、原子力プラントの開発計画から設計、建設、試運転、運転サービス、そして保全まで、東芝原子力事業部の中核拠点として最先端の設備で原子力全般の高度なエンジニアリングを推進している。その中で、大場は電気計装設計部に所属し、入社以来、原子力発電所の集中監視制御システムの設計を担当している。集中監視制御システムとは、原子炉やタービンなど、原子力発電を支えるすべての機器から送られる温度や圧力、回転数などの膨大な運転情報を瞬時に集約し、原子力プラントを安全に運転するために、常に監視・制御する巨大システムである。大場の仕事は、設計といっても工場側のモノ作りのための詳細設計とは異なり、「監視制御システムとはこうあるべき」というコンセプトを立案する基本設計業務。顧客である電力会社との協議を通じて各種仕様を決定し、工場側の詳細設計へと橋渡ししていくことが主な仕事だ。現在、大場は導入から10年以上経過している集中監視制御システムの更新という大きなプロジェクトに携わっている。ある日、大場が顧客とシステム内容を協議していた時、「この数値情報を表示する機能が欲しい」という依頼を受けた。大場は、工場側の設計担当者とHFE(ヒューマンファクターエンジニアリング)に基づいた検証を重ね、その情報を単なる数値ではなく可視化してわかりやすく表示することを提案した。それは発電所の運転に携わる多くの人が正確な情報を共有し、プラントの安全を支えることに直結する。大場の提案は、顧客から高い評価を受け、採用された。「発電所内で働く運転員の方々の目線に立って、使いやすく判断しやすいシステムの提案を心掛けています。」大場は自分の仕事を誇らしげに語る。

2年以上に渡るプロジェクトの中で、大場は工場側の設計担当者と綿密に連絡を取り合い、顧客のニーズの実現にむけてさまざまな調整を行ってきたが、顧客の主張と工場側の設計の主張が折り合わず、議論が紛糾することもしばしばだった。大場は「工場の設計の立場もお客さまの立場も理解した上で最適なソリューションを提案したい。その思いで仕事に取り組んできました」と言う。度重なる議論の末、双方が納得する方向へ進み始めたが、その根幹にあったのは原子力分野の技術者として共有する、地球規模の使命感と責任感の強さだった。
今、原子力は世界的に大きな注目を集めている。新興国を中心に一次エネルギーの需要急増が予測される中、現在はそのエネルギーの八割以上を“限りある化石燃料”に依存している。原子力は核燃料サイクルの導入により、約3000年の長きにわたり、安定的にエネルギーを供給できると試算されている。また、地球温暖化への危機感は高まる一方であり、発電時にCO2を一切排出しない原子力発電は、地球温暖化防止の切り札として大きな期待が寄せられている。
このような社会的な使命感と責任感を胸に、大場は設計業務に日夜、尽力している。大場に未来の原子力事業について尋ねたたところ、「水や空気のように、現在そして未来に渡っても原子力発電は人々の生活になくてはならないものです。」大場は素敵な笑顔を浮かべてこう答えていた。
*記事は2010年3月作成時のものです。