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孫は、2003年に中国瀋陽の高校を卒業する頃、日本の大学への留学を決意する。大学当時の専攻は応用生物学。その後、大学院へ進むとシステム創成学科で統計を学ぶようになった。幅広い分野の研究に時間を費やすうちに、より生活に近い分野の研究に惹かれるようになっていった。
生活基盤を支える分野の研究は、孫にとっては単に興味を抱くというより、将来性を感じる研究として位置付けられ、非常に意義深いものに感じられた。「技術や設計は男性の職場なのだろう」これが、孫が抱いていた仕事のイメージだったが、就職活動中に東芝の女性先輩社員に出合ったことで、そのイメージは180°転換した。
東芝における孫の所属部署は、水力プラント技術部。この部署は、営業、設計、製造以外の独立した技術系の最上流部門だ。水力発電所に関わる全機器を取り扱い、プラントの計画立案、各機器の仕様決定、機器の据付までの全体的な取りまとめを行っている。孫は、この部門に配属後,半年間の工場実習を経て、北海道電力の京極発電所チームの一員として活躍中だ。
蝦夷富士の愛称で全国的にも有名な羊蹄山を間近に臨む北海道虻田郡京極町。その北部に位置する台地に巨大なプールのような調整池を設け、これを上池として、町を流れる尻別川水系をダムで堰き止めた下池との間の総落差約400mを利用し、最大60万kW(20万kW×3台)を出力する揚水発電所の建設プロジェクトに孫は携わっている。
東芝は、このプロジェクトで発電機器の納入を請け負っているが、これは、1990年に東芝が世界で初めて実用化した可変速揚水発電技術を駆使したもの。揚水発電は、夜間の余剰電力を利用して発電電動機を稼動し、水車を逆に回して水を下から上に汲み上げる方式。しかも、可変速揚水発電システムは,発電電動機の回転速度を変化させることで、夜間、揚水運転での自動周波数調整機能を持つほか、ポンプ水車の効率向上、系統安定度の向上や電圧安定維持など、多くのメリットがある。回転速度を変えることで瞬時に入出力できるため、風力や太陽光などの変動する電力の調整用として、最近特に注目を集めている。
技術部のプロジェクトチームメンバー7名のうち、孫は電気担当として発電機や変圧器の仕様決めを行っている。「一つの機器の仕様決定には、その周辺機器の膨大なデータ収集が必要です」と語る孫は、自分の仕事にたくさんの方の協力が不可欠だと力説する。
孫にこれからの電気エネルギー供給についてと、水力発電の役割について尋ねてみたところ、予想通り二つのポイントを話してくれた。一つは、産業の発達と比例して電気の供給量が不足する点。もう一つは、安全で環境にも優しい水力発電の需要がますます高まる点。さらに孫は、電力需要の伸びが一段落している日本国内よりも,人口が増え,電化が進んでいく海外での需要に将来性を感じていることも付け加えてくれた。「特に水資源が豊富な東南アジアや中国では、水力発電の活躍の場が広がると思います」中国出身の孫は、中国語を活かして母国の可変速揚水発電プロジェクトをメイン担当として手掛けるのが目標だと語る。
可変速揚水発電システムは世界に誇る東芝の技術であり、いずれはこの先進技術を自らのものとし、中国のプラントに適用することこそ、技術者としての夢でもあるのだ。
一つのデータが変わることで、そのデータに関係する多く機器の仕様を変更しなくてはならなくなる。プロジェクトの過程で、何が進んでいるのか、どんな変化があったのかをしっかりと把握していなければ、致命傷になりかねない。自分の仕事に、正確さと緻密さが要求されていることを、孫は入社2年目でありながらしっかりと認識している。「分からないことも遠慮なく質問できる職場の雰囲気がとても素晴らしい」持ち前の明るさもあり、周囲とのコミュニケーションがうまく取れている孫は、大プロジェクトに関わることができている満足感と、一つひとつの業務が先に進むたびに、自分がチームの一員として関与している充実感を噛み締めているようだ。
グローバル企業である東芝において、グローバルな視点で仕事ができることこそ、孫が描いていた理想の仕事環境なのだ。可変速揚水システムという世界の舞台が注目する技術を活かし、人々に安定した電力を供給するために、今後も孫のモチベーションは維持されていくに違いないだろう。
*記事は2011年12月作成時のものです。