グローバルEV実証実験で必要とされるマネジメント力とは?
グローバルEV実証実験で必要とされるマネジメント力とは?
2023.1.5
邱 天龍 プリンシパル・ダイレクター
「NEDO事後評価委員会のプロジェクトの説明資料(公開)」より引用
筆者は、NEDO国際実証事業である、「マレーシアにおける10分間充電運行による大型EVバス実証事業」に2017年より参画し、日本コンソーシアム(JC)とマレーシアコンソーシアム(MC)をブリッジし、現地構築作業のマネジメントを行いました。
その時の経験から、新しい要素技術を多く使うEVプロジェクトにおいて、どのようなプロジェクト管理が求められるか、また参画期間に発生したパンデミックから、変動性や不確実性が高まる時代に、どのような危機管理力がリーダには求められるか、ご紹介したいと思います。
目次
コネクテッド・バス(Connected Bus)構築
2017年、EBSSは「コネクテッド・バス(Connected Bus)」の取り組みで、情報システムのデータ伝送速度、粒度、および頻度改善のためにIoTシステムの刷新の支援を担いました。
コネクテッド・バスの仕組みは、4G通信回線によるクラウドIoTでバス、充電器の稼働状況、ルート上のバス位置、電池残量や電池温度、エラー情報などをリアルタイムで監視、モニター表示が可能とするものです。
「NEDO事後評価委員会のプロジェクトの説明資料(公開)」より引用
我々EBSSが参画したのち、各目標に対して、アクションを定め、データの収集頻度や、ユーザインタフェースが改善され、事業化に向けて前進する成果を上げられました。
EV実証実験におけるプロジェクト管理
(著者撮影)
1)情報システム導入とは異なるクリティカル・パス
有形・無形のモノづくりとしては基本的に同じで、要件定義、構想、モックアップ(試作)、設計、実装、試験、稼働というアプローチです。こうした有形の実証実験は、無形の情報システム導入と比べると、製品を組み上げるのに使える部品、ツールや設備の調達が必要で、その準備期間がクリティカル・パスになることが多く、プロジェクト・スケジューリングする際にモノの調達リードタイムを大いに考慮しておくことが重要です。
特に、COVID-19パンデミックで全世界の製造業、物流業が打撃を受け、部品とツールが思うように届かないことで調達のリスクマネージメントは非常に重要だと実感しました。
2)電気自動車(Electric Vehicle)構築
電気自動車構築では、車両にEV機器とハーネス、車体(ボディ)、制御措置(VCU)を組み合わせていきます。電気系統は、様々な電圧、電流で稼働する機器を用途別の変換機(インバータ・コンバータ)に取り付けて、VCUによる制御をする、という仕組みです。
各フェーズで生じる技術課題の交通整理を行うには、ある程度の機械系統、電気系統の専門知識が必要になります。
実証実験ならではの進め方
(著者撮影)
今回の実証事業プロジェクトでは、色々なチャレンジと試みがありました。これが必ず有効ということではないですが、当プロジェクトで行った取り組みを紹介します。
・プロトタイピング構築概念
モックアップのフェーズでブレインストーミングした構想を基に、バス構築を進めていきました。 ただ、各大手ステークホルダーはプロトタイプを自社品質基準に準拠させたいマインドがあります。より多くの時間と工数を使って、各社品質基準と当プロトタイプ構築の妥協点を見つけて、合意させる必要があります。
・プロトタイピング部品適合
あらかじめ供給されているEV部品、また新たに進化するEV機器、ローカル製造の中間部品、そのバリエーションで、互換性や整合性の不一致によるシステムトラブルが、多く発生します。また、通信シグナルの競合、想定外のハーネス抵抗値、ヨーロッパと中国の規格違いなど、想定以上のテクニカル課題が起きます。プロジェクト管理上、十分なリスクを見込んでおく必要があります。
・トライ&エラー
車両の既存システムはブラックボックスであり、技術情報の入力が困難でした。その度に想定ケースを作成してデバッグ作業による原因究明のトライ&エラーを繰り返します。
COVID-19パンデミックとの闘い
2018~2019年の設計フェーズではスケジュール通りに順調に推進しましたが、2020年のCOVID-19パンデミックによる、世界各国の行動制限やロックダウンで、DD(ダブル・デッカー:2階建て)バスの構築作業は、大きなダメージを受けました。
2020年は、技術者の渡航移動制限、組立工場のクラスターによる閉鎖、海外輸入部品の遅延などの発生でDDバスの組立作業は大幅に停滞しました。
実証期間が迫る中、前進方法を模索すべく、日本の技術者、マレーシアとインドチームで協議しました。IoTの発想を応用し、リモートによるバス組立指導、リモート会議を通して高電圧EV機器の性能試験、結合試験をチャレンジしました。
パンデミックや紛争の昨今、予期せぬ事態に備える必要があります。常にWhat-Ifを念頭に第二・第三のオプション、コンティンジェンシープランを検討し、ifがおきたら適用可能な柔軟なプロジェクト推進が重要です。
まとめ
- 情報システム構築や推進を多く手掛けてきましたが、モノづくりの実証実験プロジェクトは、異なる観点でのリスクマネージメントの心構えが必要になります。
- 部品やツール調達リードタイム、組立や試験のロケーション確保、天候依存など、プロジェクト・スケジューリングを充分に考慮しなければなりません。
- ステークホルダーに常に情報発信し、リスクを理解して頂くうえで一緒に対応策をブレインストーミングしていきます。主張しがちな海外技術メンバーに耳を傾け、時間をかけてお互い納得できる進め方を導き出すことが、グローバル・プロジェクト推進に重要な考え方になります。
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