対談・ DX技術の現場導入を成功させるには?
対談・ DX技術の現場導入を成功させるには?
2020.12.18
株式会社TRIART 野村 侑亮 氏
イー・ビー・ソリューションズ株式会社 マネージング・コンサルタント 中嶋 宣行 氏
左:EBSS社 中嶋 宣行 氏 右:TRIART社 野村 侑亮 氏
対談の背景
製造業クライアントのDXプロジェクトにおいて、福岡を拠点とする研究開発企業TRIART(トライアート)社と、ITコンサルティング会社のEBSSとが、さまざまなトラブルに見舞われながらも、協力しあい、最終的に情報基盤技術XCOA(Cross Computing Architecture =クロスコア)を活用したシステムを、工場現場に導入しました。
XCOAは、TRIART社が開発した、ネットワーク上の端末同士が「対話」することによりネットワーク全体をスーパーコンピュータ化し、仮想ビッグデータ処理を実現する情報基盤技術。情報漏洩やデータの集めすぎを解消しつつ、情報共有・配信・解析を安全に行える、次世代のアーキテクチャです。
現在、様々なDX技術が生み出され、活用に取り組んでいる企業があるなかで、実際に工場などでの現場でこうした次世代型技術を日常的に活用し、生産活動などに適用するには、大きな障壁があります。
この対談では、今回プロジェクトにおける成功要因から、DX技術の現場導入についてのエッセンスを、考えてみます。
対談(以下、敬称略)
●まずどのようなプロジェクトでしたか?
中嶋: ある製造業のクライアント企業におけるIoT導入プロジェクトの一環として、工場現場の検査員のモバイル端末と、ライン脇にある大画面モニタとを連動させ、製品検査の進捗に合わせて、それを連動表示していくという要件がありました。
この要件を実現するために、TRIARTさんにお声掛けしたのが始まりです。
野村:ちょうどその半年ほど前 (2018年11月)に、日本マイクロソフトさん経由でTRIART社に話があり、彼らのデバイス(Surface)含めてこうしたことができる、というご紹介をしていました。
中嶋:そのころは、まだ自分に関係ない話だと思っていましたね(笑)。その半年後にあらためて、TRIART社さんに連絡をとって、こういったことがやりたい、という話をしました。そこから、何とか実験環境を作ったところで、一気に本番投入になった。
野村:そうでしたね。
●お二人それぞれのプロジェクトでの役割は?
野村:TRIARTは、XCOAという情報基盤技術を要素技術として持っていて、それを今回の要件に活用した、という形です。
中嶋:私は、XCOAをもとに、野村さんと一緒にアプリケーションを作ったようなイメージです。業務要件を決めて、システムとしてどうすべきか考えて、機材を集めるところ、申請をするところ、テストして、本番移行して、一人で野村さんの相手をしていましたね。
また、本番移行しても、業務からのクレームや、改善要請については、一旦私が受けて、業務を説得したり、問題を切り分けしたりして、野村さんに解決してもらうように渡していました。
簡単に言うと、私が整理するところ、野村さんが解決するところ、という分担ができていましたね。
野村:本番移行後は、走りながら直すようなかたちでしたが、中嶋さんが情報を整理してくれていたので、我々の課題にフォーカスされた状態で対応できました。他のプロジェクトですと、課題整理されていない状態で渡されたりして、そこを自分達でやることは多いです。今回のPJですと、幾つかの別システム構築が連携していたので、XCOAの問題に仕分けされて課題が振られるので、助かりました。
中嶋:逆に、XCOAの部分については、品質が安定していたので、お客様の信頼は高かったと思います。
●今回のプロジェクトの成功要因は何でしょう?
野村:お客様側も、わたしたちの提案を飲んでくれる、という面がありましたね。この手のプロジェクトでは、技術サイドから提案したものの、何も起きないことが多いのですが、GOを出してくれる、度量のあるお客さんでした。
中嶋:また、他のインフラのチームなどとの関係も良好で、インタフェースの定義などきれいに作ってくれていました。そういった意味で、いろいろなベンダーが入り乱れることが多いですが、今回はプロジェクトメンバが良くまとまっていましたね。
野村:そこは、本来の役割外でしたが、中嶋さんがまとめてくれていましたね。他のチームのことも気にかけられていました。
中嶋:こうした、マルチベンダーになりがちなDXプロジェクトでは、メンバの信頼関係は重要ですね。
野村:ただ、共通の目標でまとまったという感じではなく、自分の役割をうまく切り出してもらって、そこに注力できたイメージです。
中嶋:基本、自分のところをやっているのですが、他の人の相談にはのる、助け合う感じはありましたね。
(今回のプロジェクトに参画した、EBSSメンバ。別日撮影。)
●XCOAのような先端要素技術を、工場のような現場に導入するには、どのようにすればよいでしょうか?
中嶋:お客さんも夢物語を求めることがあるので、この部分はシステムで行い、この部分は、使い方でカバーする、といったことを切り分けないといけない。
それは、ユーザ側もそうだし、提供する側も、そうしなければいけない。そのためには、それを正直ベースで話し合える関係が必要です。最新技術は、やったことないことが多いので、それに合わせるように人間もレベルアップしなければいけないですね。
野村:実装してみないと分からないという部分は、TRIARTのような提供側にもありますね。そうしたことを、チャレンジングにやらせてもらう現場はやりがいがあっていいですね。やはり、新しいことをすると現場に迷惑をかける部分も出てくる、そこを吸収してもらえる現場であるとうれしいです。
また、我々のような研究開発企業には、お客さんに過度な期待をさせてしまうこともある。技術をあますところなく使うのでなく、使えるところだけを使う、というリテラシーも必要です。
中嶋:私はIS(情報システム部)側の中で、XCOAの教育講師になっています(笑)
野村:また、今回ある程度要件に合わせられたのは、XCOAが要素技術であったので、お客さん側に無理に合わせてもらう必要がなかったためもあります。XCOAはソリューション・パッケージ化していないので、要素技術を柔軟に組み立てられる基盤になっています。その方がよいと思います。
中嶋:海外はパッケージに合わせる傾向があると聞きますが、カスタマイズしがちな日本ではXCOAのような要素技術を使いこなすほうが合っているかもしれませんね。
野村:今回の技術もテレビ会議につかっていた技術を、モニタ連動に使ってみたのです。
●DX技術を有効に活用するには、どういった協力者が必要でしょうか?
野村:まず、我々の技術を正確に理解してもらえて、できること・できないことをわかってもらえること、ですね。
次に、自分達で大掛かりなシステム全部は作れないので、システム改善のようなところから使い始めてもらうのがちょうどいいです。いきなり新しいものを作るよりも、改良の方が一歩目としていい気がします。
中嶋:XCOAは、今の現場でももっと使い方はありますよね?
野村:そういった機能を理解してくれて、いっしょに展開先を考えてくれる人も重要です。
●新しい技術は次々と同時多発的に生まれてきます。その実用化を進める人、世の中に適用させる人がいると、先端技術も非常に有効なのですが、なかなか世間にいません。どのように育てるべきなのでしょうか?
中嶋:階層ごとに、いろいろな人が必要という認識です。お客さん側にも理解者がいる。次に、自分の範囲でいうと、製造業の業界知識と、IE(Industrial Engineering)分野の経験が効いています。工程分析や、作業分析なのですが、物事を分解して、繋がりを考える、ということが必要ではないでしょうか?
世間では、仕事が細分化されていく、でも流れを見る機会がないと、俯瞰していかないと力がつかないですね。ソフトウエアの世界でも同じで、フローを書いたり、図を書いたりして、全体をとらえる必要があると思います。
私は、東芝時代に工場であちこち見に行けていて、生産ラインを設計したり、ユーザ教育をしたり、していました。工場に置いてあるモノ一つにも意味がある。また、モノの流れをつかむのも大事。今回参画したPJメンバにも教えています。
私たちEBSSのような立場の仕事は、お客様の仕事に新技術を「適用させて」、お客様の仕事を楽にしたり時間を短くしたりする、つまり生産性を向上させることだと思っています。それが結果として、DXと呼ばれるものかもしれない。そのためには、お客様の仕事をできるだけ正確に理解し、図式化する必要があります。これは、現場に行ってリアルな人やモノを見る必要があります。つづいて、リアルを図や言葉にして表現しなければいけないのですが、これが難しい。テクニックやコツがあるのですが、これはEBSSだけの秘密です(笑)。
またプロジェクトは、多くの人が関わって行うものですから、チームの在り方も重要です。いろいろな要素があると思いますが、一番は「信頼関係」ではないでしょうか。今日の対談でも改めて思いました。
技術は万能ではないのと同じように、人も万能ではありません。映画みたいに有能な人を集めた「ドリームチーム」で仕事をすることなんて、まず無いですよね。特にDXプロジェクトは人も技術も玉石混交。その前提に立って、人をControlするのではなく、Managementする、人を大事にして能力を最大限発揮させることが大切だと思います。私たちはチームの一員に過ぎない場合が多いですが、このようなスタイルを発信し、プロジェクトを成功に導ければと思っています。すみません、いろんな想いがあり、語りすぎました。
まとめ
- DX技術の課題か、それ以外かを切り分け、研究開発企業にはその課題に集中してもらえるスキームをつくる
- DX技術は万能ではなく、使えるところ・使えないところがあることを理解して、仕様に落とし込む、また研究開発企業側の提案も受け入れられる、プロジェクトメンバ(業務/IS/開発ベンダ)のリテラシーを醸成する
- 中長期的には、プロセスを俯瞰して、流れでとらえられる、技術的コーディネーターを育成していく
<商標注記>
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■協力: 株式会社トライアート