ITコンサルの役割変化
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『S-PMO』の時代[第2回] - ITコンサルの役割変化
EBSSマーケティングチーム
2019.1.17
ITコンサルの役割変化
導入準備の時間が短い、規模も小さいプロジェクトが多くなってきた
前回のコラムでは、海外拠点の再編、M&A、新市場参入などビジネス環境の急激な変化と、SaaSやCloudなどIT環境の変化を説明してきましたが、今回はもう少し詳しく説明していきます。
IT導入プロジェクトの主な作業は、1 実行計画策定、2 導入に伴う新業務検証、3 IT導入、4 プロジェクト管理です。この作業をここでは「PJタスク」(PJはプロジェクトのこと)と呼びます。「PJタスク」には、類似の要件を流用したり、汎用化やパターン化されたもの、さらにはベストプラクティスを活用するなど、各プロジェクトで共通化可能なものがあります。ここでは「共通化」と呼びます。
一方、これらを各プロジェクト毎に定義しなければならないものもあります。ここでは「個別化」と呼びます。最近のIT導入プロジェクトを「PJタスク」を中心にまとめます。
ITシステムの進歩とIT導入プロジェクトに関して
ITシステムは時代とともに進歩しています。基幹システムの進化のイメージを図1と表1に掲載します。(横軸が時間、縦軸が”PJタスク”の比率、トピックス)。その中でIT導入プロジェクトの”PJタスク”における”共通化”と”固有化”の比率も変化しています。
表1.基幹システム形態の変化(補足)
年代 | 2000年~ | 2010年前後 | 2015年前後 |
---|---|---|---|
キーワード | BPR | IFRS/SOX | 新規事業他 |
ポイント | 要件定義大変 膨大な開発 |
ルールに準拠 会計機能共通化 |
ベストプラクティス Saas機能活用 |
図1より、IFRS(国際会計基準)やSOX(ITを利用した内部統制のこと)によるルールの統一で”共通化”の比率が上がり、さらに近年は海外展開や新規事業立ち上げによる時間的制約もありベストプラクティスを活用することで”共通化”の比率が高くなっていることが判ります。
従来は、BPR(業務改革)を目標に、業務分析やプロセス改革を実施し、ERPパッケージに業務をフィットさせる、それが難しければERPパッケージに不足する機能を開発することで理想的なITシステムの導入を目指してきました。しかし、業務分析や要件定義と機能開発に膨大な時間とコストが必要でした。近年はITベンダーがベストプラクティスを取り込んだSaaSが進化してきました。
IT導入プロジェクトではSaaSを活用し、ベストプラクティスで“共通化”されたサービスと自社の要件とのFit&Gapに重点が置かれ、その結果として要件定義や機能開発が大幅に減ることから、従来より短期間と少ない工数でコンパクトにIT導入を実現できるようになります。
そのため、コンパクト性重視の「Small-PJ」(PJ:プロジェクトの略称)と呼んでも良いでしょう。図2にイメージを掲載します。
コンパクト性重視の「Small-PJ」を進めるうえで重要なことは、SaaSで提供されるベストプラクティスの活用をトップ方針として、プロジェクトオーナのトップダウン型で進めることです。
プロジェクトのリード役はトップダウン方針に沿って運営するため、実行計画を作成するIT企画力、業務調整力、プロジェクト管理力(PMO力)、IT導入の対応力、さらにはグローバル対応力も求められます。
業務が限定的でITに求められる機能、コストも限られているので、リード役は少数もしくは1名で対応することになります。ここでは、この役割を『Small-PMO』と呼びます。
商品形態とIT導入プロジェクトに関して
ビジネスの売り物である商品も時代とともに変化しています。従来の商品は家電製品のような量産品、機械製品のような個別設計品が主流でしたが、近年は両者を組み合わせた商品、さらには「パーソナライズ」と呼ばれる「自分だけの1台」を提供する商品が増えてきます。
それにともない商品を設計・生産する業務形態も変化しています。そのイメージを図3に掲載します。(横軸が時間、縦軸が業務形態とその比率)。
その中で各々の業務形態に対するIT導入プロジェクトの”PJタスク”における”共通化”と”固有化”の比率も変化しています。イメージは図4をご参照ください。
図4より、パーソナライズ、量産品では”共通化”の比率が高くなっています。一方、個別設計品は、個社の独自技術で商品を設計、生産するために”固有化”が多くなります。独自技術がポジティブな差別化になるものも多いため、”固有化”は今後も存続します。
しかし、時代とともに顧客の要求に合わせてオリジナル商品を提供する”パーソナライズ”の商品が拡大しています。これらは、個別設計から開始するのでなく、豊富に用意されたバリエーションから顧客が好みのものを選択し、不足するものを個別設計して組み立てる業務形態となります。
そのため、個別設計品と量産品の業務形態を組み合わせたものとなります。パーソナライズに対応するためには、従来の業務形態に、量産品か個別設計品の業務形態を追加する必要があります。
ここでのIT導入プロジェクトは、不足する業務形態を追加するITシステムの導入を行います。個別設計品の業務形態に量産品の業務形態を追加するIT導入プロジェクトは”共通化”が多いため、SaaSの活用も可能です。
この場合、”固有化”の多い従来型システムを活用して、”共通化”の多い量産品のITシステムの追加を効率的にスマートに組み合わせることが重要であり「Smart-PJ」(PJ:プロジェクトの略称)と呼んでも良いでしょう。図5にイメージを掲載します。
「Smart-PJ」を進めるうえで重要なことは、”共通化”を積極的に採用するためSaaSを活用し、業務形態もSaaSのユースケース(使い方)を取り入れること、さらに従来の”個別化”を含んだ業務形態やITシステムと組み合わせることが必要です。
そのためプロジェクトのリード役は”共通化”と”個別化”をスマートに最適な組み合わせで実現する二刀流の役割を担います。
リード役は実行計画を作成するIT企画力、業務調整力、プロジェクト管理力(PMO力)に加えて、IT導入の対応力も求められます。ここでは、この役割を『Smart-PMO』と呼びます。
ビジネス形態とIT導入プロジェクトに関して
従来のビジネスに対して、時代とともにグローバル化、海外拠点再編、M&A、新市場参入とビジネス形態が変化しています。そのイメージを図6に掲載します。(横軸が時間、縦軸が従来ビジネスに対するビジネス形態の比率)。
その中で、各々のビジネス形態に対するIT導入プロジェクトの”PJタスク”における”共通化(領域)”と”固有化(領域)”、そして”未知領域”の比率も変化しています。そのイメージは図7をご参照ください。
図7の新市場参入のプロジェクトには”未知の領域”が増えています。デジタルビジネス市場へ参画するプロジェクトです。消費者の傾向がモノやサービスを「所有」から「必要に応じて利用」へと変化しているため、サブスクリプション(定期利用)やリカーリング(売り切りでなく継続課金して定期的に収益をあげる)の検討が加速しています。
しかしビジネスモデルが確定していないため、「PoC」(Proof of Concept:可能性を検証する)や、「プロトタイプ」(試行・検証する)などで進めることが多いです。これらは短い時間で繰り返し実施するために「アジャイル」(随時要求を取り入れ短サイクルで開発する手法)など従来の進め方とは大きく違っています。
つまり、品質を担保したシステムを作り上げるのでなく、短期間で実現性を検証していくIT検証型のプロジェクトなのです。
IT検証プロジェクトは従来のIT部門でなく、ビジネス部門の起案に基づいて実施されることが多くなっています。短期間で検証重視の「Speed-PJ」(PJ:プロジェクトの略称)と呼んでも良いでしょう。図8にイメージを掲載します。
短期間で検証重視の「Speed-PJ」を進めるうえで重要なことは、プロジェクトのリード役が、求められている機能を、適切に分類し、優先度をつけて、リリースしていく計画をたてて、ビジネス部門と合意していくIT企画力、業務調整力、プロジェクト管理力(PMO力)、IT導入の対応力、が求められます。
ここで、この役割を『Speed-PMO』と呼びます。
また、プロジェクトのリード役は決められたサイクルを、遅延なく進めていく必要があります。これは、アジャイルに関わらずPJ管理の基本ですが、PJの状況に応じて、図9の様にさらにPJ期間を細分化して「Short-Term PJ」とし、その中でPJ進捗を把握し、課題を解決していきます。
これを、『Short-Term PMO』と呼びます。